間中新料理長に見る仕事の流儀

おすすめ

独自の世界観で彩る星音のプレゼンテーション

既存のジャンルを越え、独創的かつ自由な発想で、食を体験するすべての人の五感を刺激する―それが私たちの提案するイノベーティブな料理。
そのユニークなプレゼンテーションには、間中料理長独特の料理哲学とスタイルが凝縮されています。

「ポテトのラヴィオリ」に見る引き算の心

和食は引き算、西洋料理は掛け算と言われます。
星音の料理長である間中自身は、引き算という和食の精神に重きを置き、星音のメニューを構成しています。
そんな引き算の心を大切にする姿勢は、「素材の本質を見極める」という料理長の信念にもつながっています。
確かに、高級食材やうま味を重ねれば、誰の嗜好にも合い、すべての人の五感を刺激するようなイノベーションが起こせるのかといえば、決してそうではありません。
大切なのは、個々の素材がどんな力を秘めているのかという本質を見極めること。
そして、「昆布×かつお節」「鶏ガラ×香味野菜×ドライポルチーニ」など、はるか昔から世界各地で経験的に料理へ生かされてきた「うま味」を巧みに組み合わせながら、食材の力を最大限に引き出していく。

それを象徴するのが、ポテトのラヴィオリ。
使用する食材はポテト、バター、ウニ、パスタ、かつお節といたってシンプル。
しかし、ラヴィオリをかんだ瞬間、ポテトのピューレととろけるバターのうま味がパンと弾けて口の中に広がります。
さらに、ラヴィオリの上にあしらわれたウニが濃厚なうま味を添えることで、味わいは立体的で奥行きのあるものに。
またローストしたポテトの皮を使って引いたダシは、ポテト特有の優しく甘い香りを醸し出し、スープを味わった後の余韻まで楽しませてくれます。
余計のものを使わず、食材本来がもつ個性や魅力を最大限に引き出し、素材同士をその技で巧みに調和させてつくりあげるこの一皿は、まさに間中料理長のシグニチャーであり、引き算の精神を的確に体現しています。

料理人の役割は「駅伝のアンカー」

そんな和食のセオリーともいうべきスタイルをベースとした星音の「Menu Dégustation」は、現在8つの料理で構成されています。
「その一つひとつにどれだけ多くの人が関わっているのか…料理人はそのことを常に心に留めておくべき。私たちは言うなれば駅伝のアンカーです」
そう間中料理長は語ります。

「食材や調味料の数はざっと数えても100種類、お付き合いしている生産者や業者の数が20を超えることを考えれば、1000を超える人の手が星音の食に関わっているのは間違いありません。
私たちは、それだけの人の想いを背負って、日々料理を提供しているのです。
まさに駅伝で例えるなら料理人は最後のアンカー。受け取ったタスキをお客様に届ける重要な役割を担っています。もし最後のランナーが倒れてしまったら、どうなるでしょうか? 道を間違えたり、タスキを落としたりしてしまったら…?」

料理長の言葉は続きます。
「これまでのランナーの努力や苦労はすべて水の泡に。つまり料理人は、塩加減を一つ間違えるだけで、食材そのもののイメージを落とすことになるのです。そんなアンカーという役割に、私は料理人としての在り方を見るような思いがします。私たちは、関わるすべての生産者やスタッフ一人ひとりの想いを受け取り、自分たちの知識と経験に創造力をかけ合わせ、オリジナルの作品を完成させているのです」
料理人というアイデンティティの根幹をなすこうした思想は、今や星音が大切にする信条にもなっています。

料理と共に伝える志と技

アンカーには、もう一つ与えられた役割があります。
それは、食材を育む生産者、星音における食シーンを彩る器を創作する匠の高い志と技を伝えていくこと。
長い歴史の中で継承されてきた日本ならではの伝統の技に、新しい発想をかけ合わせて生み出される生産物や工芸品は、料理に新たなインスピレーションを吹き込み、星音が表現する世界観をより具現化してくれる重要な存在。
そのすばらしさを星音のプレゼンテーションの中で表現することもまた料理人の使命の一つなのです。