次世代へ語る「料理人だからこそできたこと」

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新たな役割を担うために

間中が料理長としてこの星音にやってきたのは、2020年3月。
暖かな日差しを感じ始めた頃のことでした。
この天橋立の地を訪れるまでに12年間、イタリアをはじめ、スペイン、フランス、シンガポール、オーストラリアを巡り、料理人として研鑽を重ねてきたと言います。
しかしなぜ今、料理長は日本へと舞い戻り、この星音へやってきたのでしょうか。

「料理人」という仕事の魅力を伝える

「私は星音へ来る前、オーストラリアにあるレストランで働いていました。4年の月日が経ち、ビザの更新のタイミングが来たときにふと今後のことを考えるように。これまではとにかく経験を積み、料理人としての確かな技を磨くことに意識を向けてきましたが、最初にイタリアへ渡ってから12年、今度は料理をつくる以外にも、何かすべきことがあるのではないかと思ったのです」

間中料理長が気にかけていたのは、料理人の数が足りていないという日本の現状。
だからこそ次のステップへ進むにあたり、料理人という仕事のすばらしさを伝え、後進を育てていくことを自身の新たな使命としたのです。
「料理という世界を探求するため、私はヨーロッパ、アジア、オセアニアと旅をし、その中で共に働く仲間、レストラン、生産者、未知なる食材と出会うことができました。さまざまな出会いは、私を常に新たな世界へと導き、料理人としてだけでなく、一人の人間として大きく成長させてくれました。それだけの経験ができたのは、私が料理人であったからにほかなりません。私は自分の仕事を心から愛していますし、誇りをもっている。だからこそ、料理人という仕事のすばらしさを伝えて、新たな人材を育てていきたい。星音とのご縁があった今、その機会が訪れたのではないかと思っています」

子どもたちの憧れになるように

一昔前まで、料理人という職業は、野球・サッカーといったスポーツ選手や歌手・タレントといった華やかな世界に次いで、上位にランクインしていた印象があります。
しかし今は、子どもたちの夢にも変化が生じていると間中料理長は言います。
「私自身、小学生の頃にはすでに料理人になることを夢見ていました。だから今の子どもたちがどんな夢を描いているのか知りたくて調べてみたことがあるのですが、料理人をトップの順位に見つけることはできませんでした」

情報化社会と言われる現代は、ユーチューバーという新しい職業が登場する時代。
料理人に限らず、知識と経験を地道に積み上げて技を習得していく職人の世界は、厳しい修業に師弟関係、長時間労働、低賃金といったマイナスなイメージが先行し、なかなか憧れの職業にはなりえないご時世なのかもしれません。

「でも料理人ってかっこいいと思ってもらいたいですよね。おじちゃんかっこいいことしているねと言われたい」
そう語る料理長。そこにはいつかまた料理人という仕事にスポットがあたる時代が来るだろうという受け身の姿勢ではなく、料理人という仕事の魅力をどう伝えるかを真摯に考える姿がありました。

憧れの料理人の姿とは

そもそも間中料理長が理想とする料理人の姿とは、どのようなものなのでしょうか。
「心技体が整っているとでもいうのでしょうか。料理人はアスリートと一緒で身体が資本。まずキッチンという場に立てなければそこからは何も始まりません。そうしたフィジカル面の強さに加えて大切なのが、食材に対する想いと食体験の創造に携わるすべての人たちへの感謝の心。そこへ経験に裏打ちされた確かな技が加わる。
心技体が整った料理人は、人間味という最高のスパイスを効かせた料理を表現することができます。料理を食べてその人柄が感じられる。そこに私は真にあるべき料理人の姿を見出しています」
グローバル化と共にAIが発達している時代ではありますが、それでも人がつくったものの良さは変わらない。
料理人をアイデンティティとする間中料理長のような存在が、そのことを確かに証明しています。